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角田光代「予定日はジミー・ペイジ」の感想

●読書感想文
予定日はジミー・ペイジ
著者:角田光代
発売:2010/7/28

誕生日の本(←小説に出てくる架空の本です)によると、
誕生日には「地味な日」と「派手な日」があるらしい。

私は間違いなく「派手な日」の生まれ。

世界中から愛された大女優、大物政治家、
超人気があったアイドル歌手などが生まれた日で、
他にも活躍された人が多数いて、その名前を眺めているだけで、
私って凄い才能を持っているのではなかろうか、
と大きな勘違いをしそうな誕生日。

角田光代さんの「予定日はジミー・ペイジ」を読みました。世界三大ギタリストとして名高いジミー・ペイジの誕生日に出産する予定である妊婦の記録。「性交」から始まり、「陣痛」で終わる、十月十日の物語。

小説は、そのほとんどがフィクションです。作家の想像力によって作り出された架空の世界であります。と頭で理解はしていても、あまりにもリアルだと「この話は実体験じゃないの」なんて勘ぐりたくなることがあります。

予定日はジミー・ペイジもそんな小説でした。
小説というより日記みたいで、
だから、最初は角田さんの実体験なのかと思いました。

しかし、私の記憶が正しければ、角田さんは「子どもは欲しくない」と仰っていて、でも、人の気持ちは変わるから、結婚して気が変わったのかしらん、と読み始めましたが、やっぱり気になるので、途中をすっ飛ばし、最後のあとがきを読むと、やはり角田さんは妊娠してませんでした。

小説を読むつもりで買ったけど、なんだか騙された気分になった勝手な私。ただ、不思議なのは、「八日目の蝉」を読んでも、角田さんが赤ちゃんを誘拐したとは思わないのに、なぜ「予定日はジミー・ペイジ」は、角田さんが出産したんだと勘違いしてしまうんだろう。

一番目は、この小説には日付が付けられ、日付順で書かれていたからだと思う。二番目は、「八日目の蝉」のような特異な話ではないからだと思う。三番目は、主人公が妊娠したことを喜べなかったからだと思う。三番目がとくに角田さんらしさを感じて、勘違いしたのかもしれません。

なので、読み終わって改めて感じました。経験がなくても、これだけのものが書けるなんて、やっぱりプロの仕事は違うなぁと。表現だって美しいもん。私が書くような陳腐な日記じゃないもん。

たとえば、海を見たときは、「海が広がっている。広がっている、というより、もりあがっているというのが近い。平皿にこんもりと盛りつけられたごはんみたいな海である。表面が炊きたてごはんみたいにつややかに光っている」と表現し、たとえば、太陽を見たときは、「東に林立するビルのてっぺんから、じりじりと橙の太陽がのぞかせ、やがて全体が姿をあらわす。さっき橙だった太陽は、ビル上部にのぼったとたん白くなる」と表現。こんな風に書いたことないし、書けないもん。

この小説、最初は、朝日新聞に掲載された短い小説だったそうです。新聞に掲載されたときは「掌編小説」とちゃんと書いていたそうですが、角田さんが出産したのだと勘違いした人達からぞくぞくとお祝いのカードや花が届いたそうです。妊娠による体調や心の変化は、妊婦によって千差万別。といっても、《一日中ずっと、ものを嘗めたい衝動とたたかって過ごす妊婦》なんて会ったことも聞いたこともありません。でも、この小説を読んでいると、嘗めたい妊婦さんもいるんだろうなと信じちゃうほどリアルなのです。だから、勘違いしてお祝いを贈った人の気持ちがよくわかります。

角田さんの小説に出てくる男性は苦手です。そんなにたくさん読んでいるわけじゃないけど、印象に残らない人も多いくらい。でも、「予定日はジミー・ペイジ」に出てくる夫くんは好きです。肉食と草食の中間くらいの男で、いい奴なのよ。やっぱり結婚するなら優しい人がいいよ。先は長いんだから大事にしてくれる人がいいよ。わがままに振り回されるより、わがままが言える相手がいいよ。としみじみ思いました。

子育ては男もできるけど、出産は女にしかできないこと。
母性の塊のような妊婦もいれば、小説のようなダメ妊婦もいて、人の数だけ妊婦のドラマがあるけど、ただ、共通して言えるのは、十月十日は、母親のお腹の中にずっと一緒にいた時間で、自分の誕生日は、母親がすごく頑張った日であることは間違いないんだよね。

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