映画「悪人の感想」岡田将生と満島ひかり
映画「悪人」を観てきたとよ。
監督:李相日 脚本:吉田修一、李相日 出演:妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり 公開:2010年9月
松たか子の「告白」を観た後で、似たような暗い映画なので比べちゃうけど、「告白」は映画より小説が好きだけど、「悪人」は小説より映画が好きです。
ただ、「告白」を観たときは、森口先生はこんな風に語っていたんだ、生徒はこんな風に先生の話を聞いていたんだ、という新しい感動があったけど、「悪人」にはそういう新しい感動はなく、もう一度、小説を読み直している感じがしました。そういう意味では、映画館で観るなら「告白」かなぁ。
原作に忠実でした。といっても上映時間は139分なので、映画には全く出てこない登場人物や表現されてないストーリーはもちろんありました。ただ、小説で感動したシーンはほとんど映像化されていました。例えば、石橋佳乃の父親が増尾圭吾の友達に「大切な人はおるね?」と聞くところやバスの運転手が祐一の祖母ちゃんに「しっかりせんといかんよ」と声をかけるところなどなど。
でも、登場人物の気持ちは、けっこう端折って映像化されていたので、小説を読んでない人は感動が薄いかもしれません。そう思うと詰め込みすぎのような感じがして、もう少し絞ったほうがよかったのかも。しかし、ラストは小説より映画のほうがええです。タクシーの中で深津ちゃんが泣いてくれたらもっと感動したのに。
これ、ネタバレしてるように見えるけど、核心には触れてないから安心してね。
映画と小説の大きな違いは、深津絵里が演じた馬込光代の人物像でした。小説では双子だったけど、映画では年の離れた姉妹。しかも映画の妹は小説と違い自己中。でも、その設定だから、馬込光代の孤独さや寂しさはより伝わってきました。祐一と簡単にあんな関係になるのも理解できた。うん、女だってそういう気分になることあるんよ。たぶん。。。
深津絵里は演技がうまい。深津ちゃんだから、馬込光代に共感できた部分は大きい。ひとりぼっちでケーキを食べるシーンがあるんだけど、なんとも言えない切ない顔してケーキを食べるのよ。あんな顔してケーキを食べられたら・・・。その顔はずるいよ深津ちゃんと思っちゃいました。
妻夫木君もよかったですたい。「この役を絶対やりたい」と自分から言い出しただけあって清水祐一になりきり悪人顔と善人顔を見事に見せてくれました。李監督がインタビューで「妻夫木聡が演じるということも含めて、祐一を完全な悪人としては捉えることは難しい」と語っていたけど、私も妻夫木君だから(今までのイメージとかルックスの良さで)、かなり同情したような気がします。妻夫木君には、どんな悪いことをしても許してあげたくなる魅力があるの。でも、だからこの映画に深みが出たような気がします。
映画を観る前は、樹木希林と柄本明に期待していたんだけど、見終わった後は、岡田将生と満島ひかりに拍手拍手です。あの嫌な役を、やっぱり嫌な演技で、よく演じたと思いますよ。満島ひかりちゃんってこの映画で初めて名前を覚えたんだけど、「月の恋人〜Moon Lovers〜」で篠原涼子のアシスタント役をしていた女優さんなんですね。雰囲気が全く違うので気づきませんでした。
パンフレットのインタビューを読んでいると、満島ひかりちゃんは佳乃役のオーディションを自ら受けたそうです。「自分の人生を振り返ると佳乃のように、自分に小さな嘘をたくさん貼り付けた時期が自分にもあったから、過去の自分自身に立ち向かってみたくなった」と語ってました。でも、現実の役作りは苦労したみたいで、李監督から「満島さんは佳乃みたいな女の子、嫌いでしょ?でも愛して欲しいんだ、もっともっと好きになってほしいんだ」と言われ続け、日々すこぶる混乱したそうです。
そうそう、パンフレットに書かれていた裏話で「へぇ」と思ったのは、祐一の携帯電話に入っている佳乃のエロ画像は妻夫木君が実際に撮影したこと。そして、それが初日の撮影だったこと。いろいろ拘って作ってるみたい。でも、期待していた九州弁はあんまり訛ってなかった気がする。と言いつつ、見終わるとすっかり感化されていたけどね。映画館から出た最初の言葉は「おもしろかったと?」だったし。
この物語は「悪人とはいったい誰なのか」というのがテーマですが、そんなのハッキリしてます。どう考えても一番の悪人は犯人です。たしかに犯人に同情すべきことはたくさんあります。監督は「子どもを捨てるような娘を育てたばあさんも悪人」だと語ってましたが、それもわかるけど、やっぱり殺人はダメだよ。
犯人はカッとなって佳乃を殺しました。 でも、佳乃の父親はカッとなっても増尾を殺さなかった。 この違いが「悪人」と「普通の人」の違いだと思う。
でもさ、彼に大切な人がおらんのは、誰のせいなんやろね。
ちょっぴりネタバレあり映画レビュー
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